本棚
国立映画アーカイブの特別展の展示物を、国書刊行会が書籍化して出版していることを知った。新宿の紀伊国屋でのブックフェアで見つけて、ただちに買って持ち帰りその日のうちに読んだ。 助監督業のかたわら禁欲的に脚本の執筆にいそしんだ若い時代にはじまっ…
荻窪に住んでいたとき、ある日曜日にひさしぶりに書店にいく時間ができて、そこでみつけて買ったのだとおもう。あまり読めずに実家の書架に挿していたものを、年末年始の休暇に読んだ。 アメリカ合衆国の住人が、黒人差別を嘆いたり、そんなものは存在しない…
なにかを思い出したかのように唐突に、英語で人文書を読みだしたのはいいことだった。とりわけ Light in August をじっくり読み返せたのはよかったなあ。 Modernism: A very short introduction - ユユユユユ Mrs. Dalloway by Virginia Woolf - ユユユユユ The Sound …
Oxford University Press によるシリーズより、歴史学の簡明な入門書を読んだ。 「歴史とはなにか?」と問うのはなかなかやりづらい。どんな回答に納得できるのか、自分自身でもよくわかっていない。まして歴史の専門家であれば、その回答がいわばアイデンテ…
石黒正数の『外天楼』を読んだ。コミック好きの同僚らがこの作家に言及しているのを聞いて、短編集の装いをしているこれをひとつ読んでみることにしたのだった。 舞台背景の情報を短い挿話に書き込んで、本筋からの逸脱も群像劇にちりばめながら、最後にはひ…
ものしりの友達が教えてくれて、しばらく興味をもちながら手に入れていなかった物理の参考書を買った。 駿台文庫の『新・物理入門』は、高校物理の上級者向けの参考書とされている。しかしそれは端的に難解であるというのではなさそうにみえる。一般の教科書…
詩人の大崎清夏さんの新刊をジュンク堂の池袋店でみつけた。あとからみると、その日がちょうど発行日だった。万年筆のサインと「よい飛行を」というメッセージがはいってある。 文庫本よりもすこし縦長の形態をしていて、表紙を脱がすと水彩画のしたにローマ…
異なる時代と地域をそれぞれ専門にする12人の歴史家の、歴史学へのイントロダクション講義を束ねた本。これを読んだ。 「思考法」とひとつの言葉で抽象化するにも多彩なもののみかたが提示されて、とうぜんこの一冊によって歴史学のすべてを飲み下すことはで…
セルバンテスのドン・キホーテを、岩波少年文庫の牛島信明訳による抄訳で読んだ。 風車に突撃する偽騎士の話だということが教養としてひろく行き渡っているのは言うまでもない。しかしそれにとどめておくにはあまりにもったいない。この歳まで読まずにきたこ…
鎌倉殿ブームにあやかって買ったままになっていた、岩波文庫から新しく出た太宰治の『右大臣実朝』を読んだ。 太宰といえば天衣無縫の私小説作家という先入観があったのだけれど、それはまさしく先入観だった。『右大臣実朝』は、吾妻鏡からの引用、実朝の歌…
Saša Jurić の Elixir in Action, 2nd Ed を読んだ。 https://www.manning.com/books/elixir-in-action-second-edition この本は前々からいつか読んでみようと思いながら、いやいまはもっと他にやりたいことがあるから止めておこう、と躊躇していた。そして…
新宿紀伊國屋書店をふらっとおとずれたら、一階と二階のフロアが大きく改装されて公開されていた。そういえばしばらくのあいだ二階の文芸コーナーがアクセス不能になっていて、眺めたい棚がどこにいってしまったのかわからなくなっていた。昔ほどにしょっち…
肌の白い男。彼が容疑を受ける殺人、放火、逃走。生まれたときから黒人の血が流れていると疑われて、自分が白いか黒いかも、なんのために生まれてどこに向かっているのかもわからずに、数少ない知己とのすれ違いから破滅のほうに押し出されていく。 身重の若…
いちど通読したとおもわれる痕跡が残っていた。難しい単語にマーカーで下線が引かれているのである。 学生のころに購入して、夏休みかなにかの折に第一部を読んだのは覚えている。そこで挫折した記憶があった。コロナに罹って寝込んでいるほかなにもすること…
紀伊国屋の新宿南店にてペンギン・クラシックス版を買った。おもしろく読んだ。ウルフを読むのははじめて。詩的なレトリックが頻出する文章を原書で読むことができるのは幸運であった。 たぶん和訳で読んでいたら途中で飽きてしまっていたんじゃないかとおも…
川端康成が読みたいというよりは、京都の話を日本語で読みたいという気分があった。『古都』という作品があると聞き知って、それが新潮文庫から新装版で出始めているということも気に留めていた。その新しい版が区立図書館にあるのを偶然にみつけて借りてき…
芸術思潮としてのモダニズムというのにふと新しく興味がわいて、新宿南口の紀伊国屋の、洋書のフロアを久しぶりに訪れてこの本を見繕った。大学でロマン主義の講義をとったときに、これと同じシリーズの本をテキストに使って、英語のレポートはこういう文体…
名誉が重んじられていた時代の小さな共同体で、「おれはあいつを殺す」というぐあいに、殺人が予告される。あるものはそれを酔っ払いの大言壮語とおもい、あるものは本気でそれを防ごうと奔走する。それを止めるチャンスは無数にあったはずながら、ボタンの…
新しい小説を読むのはずいぶん久しぶりになる。読みだした最初の10ページほどはなかなかこちらのエンジンがかからずにいた。若い主婦がキッチンに立って独白するという、うまく自分にひきつけてもぐりこめない舞台から話がはじまるので、たしょうの戸惑いは…
ツイッターで発された「いい言葉」の抜粋を相田みつをの名言集よろしくパッケージしたような本、という印象が最初にあった。元気の出ることは書いてありそうだけど、1ページに140文字くらいという濃度の本で、しかも同じものをネットで無料で読めるんでしょ…
1-8章では『一般言語学講義』の概要を解説する講義が語られて、9-10章で丸山先生のソシュールに依拠した文化論が語られる。 https://www.amazon.co.jp/dp/4062921200 チョムスキーは知っているけど、ソシュールは大学の講義で聞き知っているくらいで、ちゃん…
でも、文法には説明の気持ちよさがあるんだよ。特に関係がないと思われていた複数の事柄とか、例外に思えていたものが統一的に説明される気持ちよさ。1 数式を美しいというのと同じように、文法は美しい。ごく少ない文法規則、例えば英語であればたかだた5つ…
マセマの線形代数を終わらせたので、次にやろうとおもっていた参考書を準備した。裳華房の『手を動かして学ぶ 線形代数』である。 8つからなる章立てはいずれも既習の範囲になる。行列の定義からはじまり、対称行列の対角化にいたる。各章は3つの小見出しに…
同じタイトルの記事を一ヶ月前に書いた。これをきちんと終わらせることができた。 https://jnsato.hateblo.jp/entry/2022/02/07/230000 二次と三次のベクトルを図示しながら自然な形で概念を示してくれる。より高い次元への一般化は、それが可能であることだ…
漱石の『硝子戸の中』を読んだ。ひとりで物思いに耽る、そういう意味の孤愁という単語は、石原千秋の解説文に教えられた。新潮文庫版である。 晩年の漱石が、広くはないが狭くもない部屋の中で、豊かではないが貧しくもない生活をしている。若い日の記憶のな…
A programming language to heal the planet together: Julia | Alan Edelman | TEDxMIT https://www.youtube.com/watch?v=qGW0GT1rCvs というビデオを週末にみて、めっちゃいいバイブス! と気持ちを奮わされて、そのまま Julia をインストールして、すこし…
SICP が届いた。 amazon のレビューを見ていても、みんなが口を揃えて「この本は異常なほど難しい」「しかし読む価値は確かにあった」と、他に類をみない推薦文が並んでいる。 teachyourselfcs.com で言及されていた、 UC Berkeley CS 61A という講義のウェ…
The Little Schemer を読了した。正月休みに読み始めていた。 ひとくちに再帰といっても、よくわかっていないところが多い。うまく制御できずに無限ループを引き込んでしまうのが怖い。そういう畏怖に似た感情をもつ人は少なくないのではないか。かくいう僕…
Cがコンピュータがどう動作するかのモデル化に最も適した言語とすると、Lispは計算というものがどう振る舞うかをモデル化するのに最も適した言語だ。ほんとのことを言って、Lispについて多くのことを知る必要はない。一番シンプルでクリーンなSchemeを使い続…
多読の逆を心がけた一年だった。少ない本をじっくりと読む。そうすることで、かえって知恵は深められたようにおもう。 今年読み上げた本のうち、確かに身になったとおもえるものを列挙する。どれもアカデミズムにおける経歴がたしかな著者/訳者によるもので…