ユユユユユ

webエンジニアです

ベクトル空間の定義

放送大学で隈部先生の講義、「入門線型代数」を受講している。テキストは平易な説明でありながら証明が充実しているし、さらに放送講義で細部を補えて、たいへんよい講義と思っている。

そのいっぽうで、行列式、余因子、正則、線形結合、生成する空間、など、新たな定理や定義の導入が一課進むごとに発生して、ひとつひとつの概念は大雑把に掴めても、やがて検討している文字式がなにを表しているのか--実数なのか、ベクトルなのか、行列なのか--さえも混乱するようなことがあって、多量の文字の操作で迷子になっていた。そして最後には、計算以上に定義を暗記するようなスタンスを持ち始めてしまい、いったいなんのためにこれをやっているのか、となるにいたり、ちょっとモチベーションが下がり気味だった。

そんな折に、ヨビノリ先生の線形代数連続講義というこちらも評判のよいビデオ講義のシリーズを知って、復習のつもりでこの数週間ですこしずつみていた。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLDJfzGjtVLHnc1vTpBaCNKMUl6HauQv1a

各種の定義については初学者向けと銘打っている通り、放送大学のテキストによるただでさえ平易なものをさらに易しくしてくれている印象で、復習にはもってこいである。視聴者の多くも同様に、大学での講義で手にし損ねた理解を拾うために訪れているようなコメントを残している。

と、あくまで正規のテキストの補助資料として活用させてもらっていた格好なのだが、「ベクトル空間の定義」というこのビデオだけ、テキストで触れられていなかった(か、あるいは僕が見落としてしまっていたのかもしれないが、いずれまったくわかっていなかった)、ベクトル空間のそもそもの定義というものを知らせてくれて、一気に視界が開けた感触を持った。

https://www.youtube.com/watch?v=F0mkAiRiLik

ベクトルとは、有向線分としての幾何ベクトルを拡張して数の並びとして扱えるようにしたにすぎない、とみなしていた。その先入観を、このビデオの「演算規則が8つの公理を満たしていればそれがベクトルである」とか、「これらの公理を満たすようにうまく演算規則を定義する」などというメッセージが、突き破ってくれた。いかにも恣意的にみえかねないような演算が、実は公理に従属するように設計されている、という視野は所有していなかったものである。また上位のクラスを満たすようにインターフェースを実装するという抽象化の進め方はいかにもプログラムの設計に通じるところがあって、見事な一般化に凄みも感じている。

実際のところ、これらを使ってただちになにかを生み出せるようになったわけではないし、まだまだ学習としては入門レベルに止まっているわけで、状況としてはなにも変わらないのだが、低下傾向だったモチベーションがグッと持ち直しているのを感じて、やる気を活性化させてくれる教育者がいてくれることのありがたさを思った。

微分積分は楽しいけど、線形代数はちょっと苦手かもしれない、と思っていたところに思わぬカンフル剤を打ち込まれた。どちらも入門レベルは無事に完走できそうな気もしてきた。嬉しいことである。