映画
イーストウッドの監督作を観た。1993年。 冒頭のシークエンスは、真っ白のタンクトップを着たケヴィン・コスナーが芝生に寝そべった様子を映す。汗ばんだ右腕を頭の後ろに回して、眩しい日差しに目をつむっている。『出てこいキャスパー』のお面がかたわらに…
ジャン=ジャック・ベネックスの第一作を新文芸坐に観にいった。 性的倒錯を美化して描いているようで、たいへん居心地が悪かった。ジュールズのいくつもの狂った犯罪をすべて受けとめることがシンシアの存在意義になっていて、ご都合主義の脚本もいいところ…
ケンタッキー州ハーラン郡での、鉱山労働者によるストライキを記録したドキュメンタリー。 冒頭のシークエンスは、暗い鉱山のなかではたらく労働者たちを記録する。真っ黒の塵が充満する環境で肉体を酷使する労働者たち。その塵は彼らの肺をむしばんで、命を…
ジョーダン・ピール監督の評判高いデビュー作を観た。2017年の作品。 ホラー映画と聞くのでおそるおそる観はじめたのだけれど、あんがい恐怖とは遠い印象が続いた。しかし得体の知れない違和感、いやらしさ、居心地の悪さはたたみかけられる。 年嵩のひとび…
スピルバーグの駆け出し時代の作品を観た。不条理と被害妄想が重なり合うさまを描いて、アメリカらしい物語であると感じた。 ほとんど全編がたったひとりのカーチェイスに費やされていて、スクリーンに二人以上の人物が映るシーンはごく少なく切り詰められて…
シュワルツェネッガーの『コマンドー』で、景気よく新春の映画初めをした。 素晴らしい肉体が自動ライフルの反動で揺れるのを、シュワルツェネッガー世代ドンピシャの母ともども楽しくみた。一瞬たりとも目が離せないというのを、サスペンスとは真逆の意味で…
劇場で観たものでよかったものを選び出すとこうなる。正しく順序付けようというほどに考えてはいなく、なんとなく記憶に残るものを上においておく。 『偶然と想像』 - ユユユユユ 『グリード (1924)』 - ユユユユユ 『コーダ あいのうた』 - ユユユユユ 『トップガン マーヴ…
全48話中44話まで観た。もうすこしでフィナーレなのだけれど、おもしろくなくなってしまったので、来年に持ち越すことはせずにおしまいにすることにした。 源実朝が右大臣に叙されて、鶴岡八幡宮に参詣する。その雪の日の惨劇をいざ迎えようというところまで…
ジョージ・A・ロメロとダリオ・アルジェントの『ゾンビ』を観た。 学生時代に残酷映画の製作と啓蒙をしていた友人がこれの大ファンだった。彼ともっとも仲のよかったころは、どうしてか観賞していなかった。サウンドトラックの生演奏イベントがあるといって…
ドン・デリーロの『ホワイト・ノイズ』が映画化されたというのでたのしみに観にいった。アップリンク吉祥寺にて。 大量のモチーフがほとんど生のまま動員されて、とっちらかったままに幕引きとなった。というと散漫を否定するものいいのようになるが、そうで…
ライアン・クーグラー監督の第一作にしてマイケル・B・ジョーダンの出世作でもあるすぐれた映画をみた。 22歳のオスカー・グラント青年が現実に銃撃される瞬間の、携帯電話のカメラのフッテージが冒頭に挿入される。その生々しい暴力を提示したうえで、劇は…
『クリード チャンプを継ぐ男』に続けてシリーズの第二作を観た。 公開時に劇場で観た記憶がある。そのときにはじゅうぶん楽しめたようにもおもう。しかしあらためてみるとしょうしょうメロドラマ的にすぎる印象が勝った。家族、親子、結婚、出産。これらの…
来年に続編があると知って『クリード』の第一作をみなおした。 少なくとも二度はみているはずなのに、始終肩に力をいれてみていた。リッキー・コンラン戦、最終ラウンド前のロッキーとアドニスのやりとり--"Prove what?" "I'm not a mistake"--で、おもわず…
ジョン・ウェインの『アラモ』をみた。原題は The Alamo 。1960年。 テキサスにある砦を争ったといいつつ、結局のところ砦は守りきられたかどうか。米墨戦争とどのように関係しているか。このあたりの史的事実はなにひとつ知っていなかった。単にジョン・ウ…
あまりにもよくない。150分の上映で、キルモンガー登場の2分間以外にみるものがほとんどなかった。 誰ひとりとしてまっとうな描かれかたをしていない。毅然たる女性像を演じていたはずが唐突に感情をむき出しにしてリーダーにふさわしくないことを無意味に表…
前半部はスティーブ・ビコの若い晩年と死、後半部は彼の生涯を国外に伝えようと南アフリカからの亡命を目指す白人ジャーナリストの逃走劇を描く。1987年の映画。 思慮深く、物腰は柔らかく、それでいて強力な信念を持った若いリーダーに、こちらも若く穏やか…
北野武の三作目を観た。 1991 年の作品。 サーフィンを主題にして、爽やかなスポーツ映画の装いをしている。聾者の主人公が、静かな情熱で波乗りに没頭していくさまを、ほとんどダイアログを使わずに表情とたたずまいだけで穏やかに映す。騒がしくなく、余裕…
北野武の『BROTHER』を観た。2001年の作品。 日本人のヤクザが暴力によってロサンゼルスに勢力を築いて、崩壊していく。山本と白瀬の効果的な銃撃によってのし上がっていく様子は、爽快なテンポで描かれているが、常に悲哀がつきまとっている。とりわけ、寺…
ボクシングものであるという先入観で観たら、あんがいボクシングのみならずヤクザ、漫才、サラリーマンの世界の端々を、それらの世界に足を踏み入れていく若者たちの視点を通して描いて、シーンとシーンのあいだに独特の濃淡があった。子供が大人の世界に足…
新宿の IMAX 上映は秋になって終わってしまった。指輪物語の復刻上映がしばらくあって、いまはアニメ映画を上映している。あいまにトップガンの新旧二本立て上映というプログラムもあったけれど、疲れてしまうそうでついに行かなかった。 前の週に大きい仕事…
ダイアンとカミーラというドッペルゲンガー的ペアが、いっぽうでは重なり合いもういっぽうでは相争うという、アメリカン・ゴシックの系譜を引き継ぐ想像力とおもった。 登場時点では典型的な田舎娘として描かれて、語るべき内面を持たないような、いくぶん浅…
「悪い奴」に正義が立ち向かうという大きな筋書きを、社会的な関係と人情の機微で肉付けして厚みを出す脚本で語っていて、たいへん満足した。 秘密の動機を浮き彫りにするやりかたがおもしろい。汚職の秘密を共有する「クリーンナップトリオ」に食い込んでい…
印象的なシーンはあった。たとえば大女のダンス。ルイーザの憤激。泥風呂でのめくるめくワンショットでのセリフ回し。それらはみな、この映画が名作たるゆえんではなく、ジャンクに埋もれた一片の輝き、全体の成功に寄与しない一部の成功、とみた。芸術家は…
夕暮れに話ははじまる。主人公権藤が勤め先に敵対的買収をかける計画が披露されたあとに、誘拐犯からの最初の電話と、警察の秘密の介入によって舞台のお膳立てが整って、他人の子のために身代金を支払うか、支払わないか、という問題に煩悶する演劇仕立ての…
セリフの比重が大きくないわりに、じっくりと演技をみせるということもしてくれず、遠くに配置したカメラをしつこくズームインして登場人物の顔がスクリーンからはみださんばかりとなり、ちょっと動くだけでも画面のなかでは激しく動いてしまって落ち着かな…
どんな男が話しているのかわからない、ベラスケスへの晦渋な批評のモノローグからはじまる。書きことばを読みあげていて、おそらく話者自身も意味を伝えられると信じていないし、伝えようとははなからしていない。伝わる意味があるとすれば、それは難しそう…
正直なところ、この映画に強い印象や大きな存在感を感じてはいなかった。学生の頃にお勉強で観賞して、ふうん、と思ったくらいだった。つまらないとは思わなかった。ベッドの上でタバコを吸うのは格好いいけど、灰のやり場所にこまるだけだから真似すること…
断片的なエピソードを恣意的にみえるやりかたで接合して長編に仕立てた印象があった。ひとつひとつの断章はおもしろい小話になっているが、全体を統合する構造をつい探してしまい、それがあらわれなかったことで肩透かしを受けた感覚があった。 青春映画の体…
クライテリオン・コレクションのアーカイブから、気の向くままにお気に入りの映画をいくつかピックアップする短いビデオシリーズをこのまえ見つけた。このビデオではスターの風格を持ったレナーテ・レインスヴェという女優がフィーチャーされている。 https:…
今年の大河ドラマはめっぽうおもしろいという話を教えられて、この月から NHK オンデマンドを契約して、駆け足で最新話まで追いついた。ちょうど頼朝が物故したところ。13人というキーワードは次回から大きく取り上げられることとなり、いよいよおもしろく、…